社会発信公開イベント
シンポジウム等
お茶の水女子大学・株式会社LIXIL連携キックオフシンポジウム(2026年2月24日)
シンポジウム「水まわりから考える未来の豊かな暮らしへ:共創によるジェンダード・イノベーション」

トイレ・キッチン・浴室といった水まわり設備のイノベーションは私たちの生活に快適さをもたらしてきました。150年の歴史を刻むお茶の水女子大学と水まわり事業100年以上の歴史を持つ株式会社LIXILは、こうした水まわりについて考えることから未来の豊かな暮らしに寄与することを目指し、共同で調査・研究を進めます。
本シンポジウムは、両者の連携のキックオフを記念して開催するものです。プログラムの前半では、佐々木泰子学長が講演し、お茶の水女子大学とLIXILをつなぐきっかけとなった浜口ミホによる1950年代のキッチン革命と本連携の展望について話します。後半のパネルディスカッションでは、お茶の水女子大学の研究者とLIXILの技術者が登壇し、それぞれの立場から水まわりと未来の豊かな暮らしについて語り、議論します。
開催概要
| 日時 | 2026年2月24日(火)15時~17時30分 |
| 会場 | お茶の水女子大学国際交流留学生プラザ2階多目的ホール |
| 形式 | 対面・Zoomによるハイブリッド開催 |
| 主催 | お茶の水女子大学、株式会社LIXIL |
| 運営 | ジェンダード・イノベーション研究所 |
| お問合せ | 研究所事務局 igi-office@cc.ocha.ac.jp |
プログラム
| 15:00~15:10 | 開会挨拶 |
| 15:10~15:30 | 主催者挨拶 |
| 15:30~15:50 | 基調講演 |
| 15:50~16:00 | 休憩 |
| 16:00~17:25 | パネルディスカッション「水まわから未来の豊かな暮らしへ」
|
| 17:25~17:30 | 閉会挨拶 |
開催報告
2026年2月24日、お茶の水女子大学・株式会社LIXIL連携キックオフシンポジウム「水まわりから考える未来の豊かな暮らしへ:共創によるジェンダード・イノベーション」が開催された。対面会場とオンラインで110名が参加した本シンポジウムでは、お茶の水女子大学とLIXILが、未来の豊かな暮らしに寄与することを目指して連携し、水まわり設備の共同研究を進めていくことを発表した。また、主催者挨拶、基調講演、パネルディスカッションでは、連携に至った経緯、両組織でのこれまでの研究・開発の内容、そして共同研究への期待などが語られた。
お茶の水女子大学理事・副学長、そしてジェンダード・イノベーション研究所長を務める石井クンツ昌子による開会挨拶では、お茶の水女子大学とLIXILとの関係が、戦後のステンレス製のシステムキッチンの開発にさかのぼることが説明された。
創立150周年を迎えた2025年、本学では、東京女子師範学校の卒業生であり、日本初の女性一級建築士となった浜口ミホ氏が、1950年代にサンウェーブ(現LIXIL)と協力してキッチン革命を起こしたことを、ジェンダード・イノベーションの視点から再考するプロジェクトをすすめた。プロジェクトではシンポジウムや講演会を開催してきており、水まわり事業で100年の実績をもつLIXILとの連携の実現は、このプロジェクトの進展に位置づけられる。
株式会社LIXIL常務役員トイレ・タイル事業部長の水谷優孝氏による主催者挨拶では、共創のねらい、LIXIL水まわり100年の挑戦、浜口ミホ氏との共創、水まわり設備とジェンダー、女性活躍推進と文化醸成、共創が拓く未来の暮らし、という6つの点に焦点があてられた。
水谷氏は、LIXILでの100年間は、水まわりの便利さの追求に限定されず、生活価値をどう再定義するかの連続であったと振り返った。時代の変化や技術の進化に沿って、タイル、システムキッチン、ユニットバスといった建築のためのパーツを開発し提供してきたが、その背景にあるのは、空間全体を設計する建築的思考であり、浜口ミホ氏とのダイニングキッチンの開発はその一例である。家の北側の暗い場所にあり女性が孤立して働く場所であった台所に、浜口氏はステンレス製の流し台を導入し、家の中心に引き出して家族のコミュニケーションの空間に変革した。また、徹底した科学的アプローチにより、ひとの動きを測り、疲労を軽減する高さや配置のキッチンを作り出した姿勢は、現代の私たちが取り組むべきジェンダード・イノベーションの先駆けといえる。
こうしたジェンダー視点は、未来の生活空間を考える上でも不可欠であるが、それをする組織そのものも、多様性を確保して、異なる視点がぶつかり合って新しい問いを生み出すイノベーションの場になることが重要である。水谷氏は、LIXILが掲げる3つの戦略、「衛生問題の解決」、「環境負荷の低減」、「多様性の尊重」は、いずれもジェンダード・イノベーションと深く結びついていると話し、お茶の水女子大学の研究力とLIXILの実装力が組み合わせることで、水回りの常識を塗り替えるような成果を生むことを確信しているとの期待を述べて挨拶を結んだ。
「浜口ミホそしてLIXIL・お茶大産学連携の目指すこと」と題する佐々木泰子お茶の水女子大学長による基調講演は、お茶の水女子大学の150年の歴史を念頭に、文理融合によるイノベーションを考える内容であった。
浜口ミホの業績を再考するプロジェクトは、佐々木学長の主導により進められてきたものであり、講演内でも、浜口氏の経歴、『日本住宅の封建性』という著書に記された日本の住宅建築についての分析と評価、戦後の住宅難の解消と明るい豊かな近代社会の実現という課題解決に取り組んだ背景が詳しく解説された。
そして、キッチンが、女性が働く場から家族皆で使う空間へと変化してきたことを、夏目漱石の小説に描かれている明治時代の台所で女性たちが働く姿、向田邦子の作品内で語られる昭和の台所から聞こえてくる母が使う包丁の音の描写、そして吉田修一の新聞連載小説が描く令和時代のキッチンで父親と小学生の息子が一緒に夕食の支度をする姿の比較から読み解いた。
さらに、日本の女性建築家の歴史も振り返り、浜口氏よりも前の世代では、女性が建築家として働くには時代が早すぎたと言って建築家であることを辞めた女性がいたことから、戦後の1950年代という時代背景が、浜口氏が活躍できる舞台となったのではとの指摘もされた。また、キッチン革命は、東京女子師範学校でのよき指導者との出会いと家事学の学びの環境という礎に、サンウェーブの技術者や住宅公団等で住宅供給に取り組む職員といった仲間との出会いが重なることによって初めて実現できたことであろうとの言及もあった。
最後に、後半のパネルディスカッションの話題でもあるトイレの課題にも触れ、お茶の水女子大学とLIXILとの共創によるウェルビーイングの追求と、それによってどのように社会が変わっていくかへの期待が述べられた。
続くパネルディスカッションには、LIXILからはセールス&マーケティング部の中村治之氏とトイレ・タイル事業部の丸茂友里氏、お茶の水女子大学からは共創工学部の長澤夏子教授と藤山真美子准教授が登壇した。
まず、丸茂氏から、トイレの歴史文化とLIXILにおける開発内容が紹介された。江戸時代のトイレは汲み取り式で、都市部から出る資源が農村地域に運ばれ肥料となる循環型社会の一翼を担っていた。LIXILがトイレを作り始めた時代には、暮らしの変化とトイレの水洗化、洋式化が始まっていて、1960年代には、国産初の温水洗浄機能付きの便器の開発がされている。
トイレなどの水まわりの変化は、女性の社会進出と無縁ではない。公共トイレのニーズも、単に用を足すだけの場所であったものに、身づくろいをする用途が加わった。LIXILでは、建築家と協力して、デパートのトイレに手を洗うところとは別に鏡のある「パウダーコーナー」を設置するなど、先進的なデザインの実装を進めてきた。近年では、タンクをなくして掃除をしやすくする、広さにゆとりを持たせて子どもと一緒に入りやすくするといった、空間とプロダクトの両面の設計で家事負担の解消を狙った開発例もある。
男女差をつけた便器の開発もする一方で、トイレ周りの選択の男女差の調査もしており、男性は節水や温水洗浄などプロダクトの機能に注目するのに対し、女性は居心地の良さや清掃のしやすさなど、空間に着目する傾向があることを明らかにした。公共トイレについては、多様な人が「選択できる」社会インフラとして、今まで見過ごされてきたニーズに応える、すべての人にとっての尊厳を守るような空間づくりを目指しているとのことである。
藤山氏からは、これまでの研究内容とジェンダード・イノベーションとのつながりが説明された。従来型の公共トイレは、男性用、女性用、多機能といった形で、機能を分けていく形でニーズに対応してきた。しかし今は、幼い娘を連れた父親、性自認の課題のある人、女性の介護者が男性を介助したり男性の介護者が女性を介助したりという異性介護のケースなど、これまでの機能分類ではカバーしきれないニーズがある。「交差性」は、こうした複雑性を持った課題解決のためのキーワードであり、ジェンダード・イノベーションにおいても重要な視点である。
東日本大震災の際に、建物内のトイレが停電で真っ暗になるという経験から、トイレに自立的な発電システムをつけるという研究プロジェクトが実施された。メンバーはほとんどが男性であったため、男性用のトイレだけで実証実験をしようということであったが、女性用のトイレでもやろうと提案した。両方のトイレで実証実験をした結果、男女のトイレでは、滞留時間や動線の違いがあることが明らかになり、システムの最適化という意味でとても良い成果が出せた。後にお茶の水女子大学にきて、ジェンダード・イノベーションという概念と出会い、この男女のトイレの実証実験で経験したのは、ジェンダード・イノベーションだったのだと気づいた。
現在進めている研究では、これまではどう分けるかという視点で作られてきたトイレの空間を、どう共有するかという視点で考えている。多機能トイレや、車両・新幹線内のトイレなど、既存の男女共用のトイレに対する感覚のアンケート調査などをしているが、介助の必要性や障害の有無にジェンダー視点も含めると、属性の区分は多岐にわたっているため、ユーザーをある程度まとめてデータを整理することの難しさを感じている。長澤氏の研究室では、VR空間の中でオールジェンダートイレを再現して、使用感や課題を洗い出す研究もされている。
また、女性用トイレの行列が社会課題として取り上げられており、長澤氏が委員として参加する、トイレ設置数の基準と適用のあり方に関する協議会で議論されている。藤山氏は、設計基準の作成においては、トイレ空間の一般化された抽象概念に重きが置かれるが、トイレを使う個人個人の具体的実態に迫っていくことも重要であり、この両面の議論をしながら、いろいろな視点を取り入れての共創が重要になってくるだろうと述べた。
長澤氏が進行役となったディスカッションでは、中村氏を交え、丸尾氏と藤山氏それぞれの発表を受けての質疑応答や意見交換が展開された。
中村氏からは、職場のトイレの改修の例も紹介された。労働環境を整えることは働き手を集めることにもつながるということで、住宅や公共トイレだけでなく、職場のトイレも変化をみせている。例えば、工場や物流センターでは、これまで男性労働者が多かった職場で、女性ドライバーの増加に対応できるよう、トイレを快適な空間にする改修が進められていることが説明された。こうした空間づくりには、湿度やにおいを吸着するタイルという、LIXILの技術力の強みが発揮されている。
1時間を越えるディスカッションでは、トイレや空間デザインについて様々なことが話し合われたが、終盤では、人中心でものづくりを考えることの重要性や、トイレはウェルビーイングを高める空間であること、これまでの標準化基準が当たり前としてきたことを疑ってみることの必要性が確認され、それを前提とした共同研究への抱負が語られた。
閉会の挨拶に立ったお茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所副所長の斎藤悦子氏からは、参加者と登壇者への感謝の言葉と合わせて、お茶の水女子大学とLIXILの連携により、未来の水まわりが誰にとっても使いやすく快適な場となること、豊かな日常生活を実感できるウェルビーイングの追求が進められることへの期待が述べられた。
記録担当:吉原公美 ジェンダード・イノベーション研究所URA
お茶の水女子大学とLIXILは、2026年3月19日に、ジェンダード・イノベーションの視点を取り入れ、未来の豊かな暮らしに寄与することを目的とする連携協定を締結した。本シンポジウムでの議論を進化させ、社会規範の変革や法令の動向、そして多様化する社会の要請に応じた「公共建築における水まわり空間のあり方」を探求する共同研究を実施する。
連携協定のプレスリリース(2026年3月26日)はこちら



