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【学内限定】創立150周年記念講演会「都市・建築デザインとジェンダード・イノベーション」(2025年6月13日)

創立150周年記念講演会「都市・建築デザインとジェンダード・イノベーション」

ジェンダード・イノベーション研究所では、2025年5月に、本学の卒業生で女性建築家第1号といわれる、浜口ミホ氏のダイニングキッチンに焦点を当て、イノベーション創出の課題を議論しました。今回は、これに続く議論として、比較文化的視点から、浜口ミホ氏を含む女性建築家という存在が建築デザインの社会生態系にどのようなダイナミクスをもたらすのか、またこれら開かれた空間の形成にむけたダイアローグがもたらすジェンダード・イノベーションについて考察を行います。

ポスターのPDFファイルはこちら

開催概要

日時2025年6月13日(金曜日)14時30分~16時30分
会場国際交流留学生プラザ2階多目的ホール
講演ノエミ・ゴメス・ロボ(フアン・カルロス王大学)
「ジェンダー視点からの建築的実践の再定義:浜口ミホのトランスカルチャーな住居」
司会藤山真美子 共創工学部准教授
開会挨拶佐々木泰子 学長
閉会挨拶石井クンツ昌子 理事・副学長/IGI所長)
対象本学学部生・大学院生・教職員
言語英語(英日逐次通訳付)
主催ジェンダード・イノベーション研究所

 

開催報告

2025年6月13日、本学の学生と教職員を対象とした、創立150周年記念講演会「都市・建築デザインとジェンダード・イノベーション」が開催された。本講演会は、5月9日開催の、創立150周年記念シンポジウム「イノベーションはどのように創られるか:お茶の水女子大学の歴史から考える」に続く企画として、本学の卒業生で女性建築家第1号といわれる浜口ミホ氏の業績に焦点をあて、女性建築家という存在が建築デザインの社会生態系にどのようなダイナミクスをもたらすかを考察した。

佐々木泰子学長による開会挨拶では、戦後、住宅公団が手掛けた住宅にステンレスの流し台を導入して、キッチンを変えることで家庭内のジェンダー規範の変革を目指した浜口ミホの功績は、先駆的なジェンダード・イノベーションであったと説明された。そして、こうしたジェンダード・イノベーションの取組を、過去から未来へつなぐことを本学の責務として加速していきたいという抱負が述べられた。また、講師のノエミ・ロボ氏について、浜口ミホついて書かれた論文をさがしていてロボ氏の論文を見つけ、その論考から多くのことを学んだと紹介した。

ロボ氏の講演では、都市・建築デザインのジェンダー視点からの批判的論考、G邸のデザインに見られる浜口の建築についての考え、そして、スペインに建てた「海陽クラブ」で浜口が試みたトランスカルチャーな住居の設計が解説された。

建築の実践はジェンダーに影響されており、都市や建築のデザインには、その社会のジェンダー規範が埋め込まれている。例えば、都市は、稼ぎ手である男性が通勤する中心地と、ケアを担う女性が滞在する住宅地に分けられる。住宅内にも、書斎のような男性の領域と、台所のような女性の領域があり、時としてそこには男女の力関係が反映される。また、建築家という職業が男性中心で担われてきたことも、ジェンダーに基づく建築の実践のひとつといえる。そのようなジェンダーの力学が存在する中で、女性の建築家たちは、新たな価値観を生み出し、設計プロセスに新たな主体を取込んで、多様な実践を展開することで、職業的な境界を広げてきた。浜口が1949年に出版した『日本住宅の封建性』は、そのような実践によりジェンダー平等を実現しようという宣言であった。

1965年に完成したG邸は、浜口の「住みやすさ」の探究の集大成といえる。山小屋風の家をという建築主の意向をデザインに取り入れると同時に、祖父母、両親、2人の女の子の6人家族が、個人のプライバシーを尊重しながら、家族のつながりを大切にして同居する「家」のプロトタイプを作り上げた。ダイニングキッチンが家の中央に位置する大胆な住宅デザインは、浜口の考える民主的な家のアイデアの具現化である。

1960年代後半から、浜口は個人的なプロジェクトに取り組み、スペインのコスタ・デル・ソルに「海陽クラブ」の家を建てた。日本からの観光客の宿泊施設としてデザインされた住居には、日本とスペインの建築デザインが共存している。しかし、最初からそのように設計したのではなく、当初は自分と夫のためだけのセカンドハウスとして日本的な要素は取り入れずに構想した。その後、畳の部屋を設けるなど日本の家の形式を追加し、地中海を楽しむ日本人環境客にとってはスペインの文化を知る経験ができる、国際的な交流の場に進化させていった。しかしその試みは、実験的でユニークなデザインを追求するのではなく、現地の風景に自然に溶け込む外観の内側で、2つの文化を自由に融合させる、シンプルでありながら関係性の豊かな、文化が多層につながるトランスカルチャーなデザインになっているとのことである。

講演内では、2022年のリノベーションから「津田山の家」と呼ばれるようになったG邸での調査の様子や、スペインの海陽クラブの建物で撮影した写真も沢山披露され、参加者は写真を見ながら具体的な説明を聞き、浜口の住宅デザインの特徴について詳しく知ることができた。ロボ氏は、この研究を通して、浜口ミホというロールモデルに出会えたことをとてもうれしく思っていると述べて、講演を結んだ。

ノエミ・ロボ氏

この講演を通じて、参加した学生たちもまた、浜口ミホというロールモデルを見出すことができたのではないかと思う。また、熱のこもった講演をしてくださったロボ氏をロールモデルとして、都市・建築のデザインの道を進む者もあるだろう。ロボ氏の講演から私たちが受け取ったのは、浜口ミホの功績についての知見のみならず、女性建築家の先達たちから継承されたイノベーション創出の志でもある。

記録担当:吉原公美(URA)

【参加者数】47名