教育学生セミナー
【学内限定】IGI学生セミナー「お茶大生が考えるジェンダード・イノベーション 英語プレゼンテーション」(2022年9月8日)
お茶大生が考えるジェンダード・イノベーション 英語プレゼンテーション
ジェンダード・イノベーションの提唱者である、米国スタンフォード大学のロンダ・シービンガー教授を講師にお招きしてセミナーを開催します。3チームの学生によるプレゼンテーションに対し、ロンダ・シービンガー教授に講評していただくセミナーです。
ジェンダード・イノベーション研究所では、お茶の水女子大学の教職員・学生の皆様が性差(セックス/ジェンダー)の視点を取り入れたイノベーションの着想・発想を鍛える目的でセミナーや勉強会を開催しています。
本セミナーの前日(9/7)には、国際カンファレンス「ジェンダード・イノベーションが拓く未来:性差分析による新しい価値の創造」を開催予定です。
皆さんも一緒にジェンダード・イノベーションについて考えてみませんか。
開催概要
講師 | ロンダ・シービンガー氏(スタンフォード大学・教授) |
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発表者 | 布施谷 千桜(理学部 2年) 平林 沙依子(⽐較社会⽂化学専攻 修士1年) 此下 千晶(人間発達科学専攻 修士2年) 岡安 美穂(ジェンダー社会科学専攻 修士1年) 佐川 智美(生活科学部 3年) 山本 永花(ライフサイエンス専攻 修士2年) |
日時 | 2022年9月8日(木曜日) 10時00分~11時30分 |
対象 | 学内公開(本学の学生・教職員) ※お茶大メールアドレスをお持ちの方 |
言語 | 英語(一部逐次通訳あり) |
開催方法 | 対面(国際交流留学生プラザ多目的ホール)とオンライン(Zoomウェビナー)のハイブリット方式 |
問合先・主催 | ジェンダード・イノベーション研究所 (IGI) |
プログラム
10:00-10:05 開会の挨拶(石井クンツ昌子研究所長)
10:05-11:05 英語プレゼンテーションおよびシービンガー教授によるコメント
【発表タイトル・発表者】
①”What Do You Think about Music and Gender?: A Supplementary Textbook” 平林 沙依子
②”Bias Checking Software “TSUKKOMI” 岡安 美穂、此下 千晶、佐川 智美、山本 永花
③”Mei: Transforming Urban Mobility for Women” 布施谷 千桜
11:05-11:25 シービンガー教授×お茶大生 フリーディスカッション
11:25-11:30 証明書授与および閉会の挨拶(石井クンツ昌子研究所長)
※学生セミナー終了後に、IGI 教員の講評と参加証明書授与式を実施
開催報告
本セミナーは、本学の学部生・大学院生に「ジェンダード・イノベーション」に関心を持ってもらう目的で、海外の第一線の研究者と直接議論をする機会と、身近な気づきからイノベーションにつながるアイデアを考え、洗練していく楽しさを体験できる場の提供を企画したものです。
今回は、英語でジェンダード・イノベーションのアイデアを発表し、ジェンダード・イノベーション提唱者であるロンダ・シービンガー教授から講評をいただく、大変貴重な機会となりました。
英語プレゼンテーションに向けた公募期間は 6 月中旬から 7 月中旬の 1 ヶ月という短期間でしたが、様々な所属学部・学科・学年の学生から 9 組(15 名)の応募があり、お茶大生のジェンダード・イノベーションや英語プレゼンテーションへの関心と意欲の高さを感じました。9 組の応募企画のなかから 3 組(6 名)が書類・面接選考を通過し、9 月 8 日の英語プレゼンテーションに参加することになりました。
選考を通過した発表者は、プレゼンテーションに関するミニレクチャー(①ビジネスプレゼンテーション、②英語プレゼンテーション)や IGI 教職員による個別サポート、リハーサルを経て各自のアイデアを深め、より伝わりやすいプレゼンテーションへと仕上げていきました。同時に、シービンガー教授とジェンダード・イノベーションに関するディスカッションを充実させるために、発表者全員で何度も話し合いを重ねて準備を進めました。
2022 年 9 月 8 日(木)の発表当日は、学生は国際交流留学生プラザ多目的ホールから、シービンガー教授はアメリカからオンラインでの参加となりました。発表者は早朝から会場に集合し、会場設営などの準備をしました。開始時間の前に、シービンガー教授と学生とで顔合わせと自己紹介を行い、緊張感がありながらも和やかな雰囲気でセミナーが始まりました。まず、石井 IGI 研究所長による開会の挨拶およびシービンガー教授の紹介があり、続けて 3 つの英語プレゼンテーション発表を行いました。
1つ目の発表「What Do You Think about Music and Gender?: A Supplementary Textbook」は、音楽におけるジェンダーバイアスに対するアイデアです。学校教育では音楽教育に男女差はなく、合唱や楽器などの習い事では女子の割合も高いです。しかし、プロの演奏家や指揮者、作曲家となると男性が多く、女性の作曲家や指揮者の存在はほとんど知られていないことが指摘されています。そこで、義務教育の生徒が音楽におけるジェンダーバイアスについて学ぶことができる補助テキストのアイデアが提案されました。シービンガー教授より、補助テキストではなく、教科書そのものにジェンダー視点を入れることが主流化していくことが重要であるといった指摘に対し、発表者からは日本の教科書検定制度を考慮した場合に補助テキストが現実的だと考えたといった活発な議論がありました。シービンガー教授からは、性別による先入観を避け、技術や音楽性による審査が適切にされるように、演奏者の姿が見えないように衝立を用いて行うオーケストラのオーディションの事例紹介もありました。
2つ目の発表「Bias Checking Software “TSUKKOMI”」は、自分自身が無意識に持っているバイアスに気付くためのアプリ開発のアイデアです。日常生活では性別に関するさまざまな無意識のバイアスが存在しています。日本では管理職登用は能力・スキルよりも男性であることが重視されるといったデータがあります。これには、性差に対する無意識のバイアスが影響しています。しかし、自分自身で無意識のバイアスに気づくことは難しく、たとえそこにジェンダーバイアスがあると気づいても、日本の「空気を読む」社会ではそれを指摘することには抵抗があります。そこで、職場で使用できるバイアス・チェック・アプリケーション「TSUKKOMI」の開発アイデアが提案されました。「TSUKKOMI」アプリは、日常生活で何気なく使用している言葉を検知し、バイアスを含むという診断のフィードバックを得ることで、自分自身が持つバイアスの特徴に気づくことができます。シービンガー教授より、自分で意識していない人に使ってもらうためにはどうすればよいかといった問いかけがあり、発表者たちからは企業のダイバーシティ研修などで社員に使ってもらうことを想定しているといったやり取りがありました。また、シービンガー教授は、このようなバイアスは個人の価値観や地域性などとも関連しており、誰の価値観をアプリの中に取り込むかが難しい。たとえば、アメリカでは機械が自動学習をすることにより人種差別のような大変な問題につながったという失敗例もあるため、思い込みに気づいた場合には報酬やレベルアップがあるなど、多くの人々に気づいてもらうための工夫を加えた開発を期待しているとエールがありました。
3つ目の発表「Mei: Transforming Urban Mobility for Women」は、女性が安心・安全に移動できる公共システムについてのアイデアです。日本では、相当数の女性が電車やバスなどの公共交通機関利用中にセクシュアル・ハラスメントを受けた経験があるとした報告があります。また、女性は複数の用事をこなすために近距離の移動を重ねる傾向があり、首都圏の女性は男性と比べて公共交通機関の使用頻度が 2 倍以上高くなっています。そこで、女性が近距離を安全かつシームレスに移動できる輸送ポッド「Mei」のアイデアが提案されました。Mei は、待ち時間0分でドアまで迎えに来て、地下通路ネットワークを通って目的地まで輸送する自動運転ポッドです。空想の未来都市に出てきそうなアイデアですが、発表では、安全で効率よく利便性の高いMeiを実際に開発するための具体的なプランの説明もありました。シービンガー教授からは、女性や高齢者など、多様な利用者が多様な目的で使用することが考えられることから、輸送ポッドの適切なサイズを検討することの提案や、ポッドに誰かが隠れて待ち伏せする可能性も考えられるという安全面での課題の指摘がありました。また、スマートシティなどの新しいまちづくりをきっかけに導入するなど、コスト面や企業連携も含めた実現に向けた具体的な議論がありました。
3組の英語プレゼンテーションののち、発表者6名とシービンガー教授とのディスカッションを行いました。発表者からは、ジェンダード・イノベーションの視点を日本に広げるためには、①学生が学部や学科を超えてつながり、協力することが必要であること、②研究者に正しくジェンダード・イノベーションについて理解してもらうこと、③すべての人々が、男性も女性も、より良い社会の実現に貢献する意識と関心を持つことが必要だといった意見が出ました。シービンガー教授からは、ジェンダード・イノベーションの目的には、人文・社会科学から発展したジェンダーの概念を自然科学や工学にも広げて主流化していくということがあるとの説明がありました。そして、そのためには、研究者による国際的なネットワークを強化し、多くの議論を経て戦略的に推し進めることが重要であると強調されました。また、最後には、発表者の皆さんのような学生たちの素晴らしいアイデアが実現することを期待しているといった力強いメッセージがありました。
セミナー終了後には、IGI の全教員から発表に対する講評がありました。発表アイデアのすばらしさへの称賛とともに、今後のジェンダード・イノベーションを進めるためのキーパーソンになってくれることへの期待が述べられました。今回発表した学生には、石井研究所長より「Certificate of Participation」の授与が行われました。
英語プレゼンテーションを中心とする学生セミナーの開催は初めての試みでしたが、IGI の全教員・スタッフが協力して企画運営にあたり、大変充実した内容のセミナーとなりました。同様の企画を継続して実施していきたいと考えています。
報告担当:高丸理香(特任准教授)
【参加者数】35名